蕎麦 「三城」

知人からの紹介が無ければ、そこが蕎麦屋であることなどずっと知らずに、今でも店の前を素通りしていたであろう。
そんな構えの店である。

引き戸を開け、一歩足を踏み入れると、凛とした空気が漂う。
表の喧騒も、うだるような暑さも嘘のようである。
椅子、卓子などの調度品からさりげなく置かれた小物に至るまで、主の目が行き届いている。

フロアには品のいい女将。
出ず引かず、適度な間合いで客と接する。

この店にあるのは、前菜・蕎麦・香の物・デザートに酒が付いたコースのみで、メニューは無い。
席に着けば、黙っていても料理が運ばれて来る。





まずは、酒。
情趣ある片口から、馥郁たる香りが漂う。
当たりは柔らかく、優しい。
強く個性を主張しないのは、蕎麦の持ち味を損ねないための配慮であろう。

やや太めの蕎麦切りは、私にとっては馴染みの薄い食感である。
基本的に細打ちの蕎麦が好きなので、日ごろはつい敬遠してしまっているのであるが、たまには悪くない。
つゆは絶妙の“塩梅”。
蕎麦の太さに負けぬコクを蓄えながら、風味まで殺すことはない。

心地良い緊張感に包まれながら、ひたすらに蕎麦を味わう。
今まで、こんなに真剣に蕎麦と向き合ったことがあっただろうか…
時がゆっくりと流れ、腹のみならず、心持ちまでが満たされていくのを感じる。

追加のざるも平らげ、人心地つける。
と、そこへ和のデザートが供され、コースは締まる。
落ち着いた空間の中、女将のサービス、ご主人の料理には最後まで隙がない。

元来、蕎麦は庶民の食べ物であり、高級、緊張などとは馴染まないとのご意見もあろう。
しかし、それは例えばパスタのコースメニューとて同じこと。
少し目先を変えて、偶の贅沢なランチタイムを過ごしたいという向きにはお薦めの“逸店”である。





三城 （さんじろ/松本市）
http://r.tabelog.com/nagano/A2002/A200201/20000629/
[メニュー]　コースのみ　2000円
※ お酒を召し上がらない方は、初めにお断りください。
　　（代金は変わりません）
※ 追加は一枚につき2000円です。
※ 写真は'10年8月のものです。

タグ：蕎麦 グルメ

コメント 2

久々に覗いてみたら・・・更新されてたので思わずコメントを＾＾；

美味しそうなお蕎麦屋さん♪

私も細打ちが好きなんですが、太打ちだとやっぱり蕎麦の香りや食感がより楽しめそうですね～
by HIDE (2011-12-12 02:27) 

失礼しました、HIDEさん…(^^ゞ
お久です！
そうですよね、細打ち派ですよね。
ちょっと変わったお蕎麦屋さんなので、お近くまでお越しの際は是非…(^^)/
by ころん坊 (2011-12-21 01:24)