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「薬指の標本(映画)」と「ホテル・アイリス(小説)」 1 [MOVIE&DVD]

※ 作品の内容に触れる記述があります。予めご了承ください。

今回、小川洋子の映像作品と文芸作品とをリンクさせたのに、特別な意味がある訳ではない。
自然な成り行き…である。

“小川洋子原作の小説を、フランス人監督が映画化!”
レンタルビデオ店で、『薬指の標本』という作品に添えられたこんなPOPを見たとき、私は少なからず興奮を覚えた。
「我が意を得たり!」だったのである。
というのも、何年か前に『ホテル・アイリス』を読んだ折り、私の頭の中には、その時点で印象付けられていた―おそらくは偏った―フランス映画のイメージが広がっていたのである。

いつにも増して暑かったその夏、少女マリが経験する秘め事にくっきりと陰影を付ける強い日差しは、友人を手にかけたトムを苛む『太陽がいっぱい』のそれであり、また、年老いた紳士のアブノーマルな要求に懸命に応えようとするマリの姿は、“肉体を脱ぐこと”を強いられながらも次第に画家に心酔してゆく『美しき諍い女』のマリアンヌと重なる。

ひとつ間違えば低俗との謗りを免れないエロティックなシーンも、繊細な心情描写と、小川作品の信奉者たる友人が強く主張する「美しい文章」とやらに浄化され、純文学の高みへと昇華する。
かような性格の作品を映像化するには、一部の例外はあるにせよ、耽美主義の香り漂う“静謐なエロティシズム”を得意とするフランス映画を措いてほかにないと確信していたのである。
『薬指の標本』は、その意味において期待を裏切らなかった。

事故により薬指の先端を失ったイリスの新たな仕事場は、町はずれの標本工房であった。
舞台からしてフェティッシュなエロティシズムを予感させるこの作品は、多分に『ホテル・アイリス』と世界観を共有している。

「アイリス」のマリ同様、イリスも孤独であった。
人付き合いが無いわけではないが、さりとて得意でもない。
自らが日常に埋没してしまっている虚しさを感じながらも、あえてまで現状に抗うこともしなかった。
そんな日々の中で、マリは老紳士と出会い、イリスは標本師と出会った。
                                 (つづく)

薬指の標本 SPECIAL EDITION [DVD]

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  • メディア: DVD

ホテル・アイリス (幻冬舎文庫)

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[晴れ]
タグ:映画
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