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寺山修司と九條今日子さん [BOOK]

今年は寺山修司が47歳でこの世を去ってから30年の、節目の年である。
メディアでは様々な特集が組まれ、所縁の地では若きカリスマを偲ぶ企画が次々と催されている。
かつて「天井桟敷館」があった渋谷では、寺山氏の元夫人・九條今日子さんのトークイベントが開かれた。


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              (劇団員募集のポスター ※1(左) / ※2)


およそ誇れたことではないが、おそらく会場にいた者の中で、寺山氏に関しては私が最も無知、不案内であったろう。
むろん、その存在感は「劇団・天井桟敷」や「書を捨てよ、町へ出よう」といったキーワードと共に意識していたし、思えば、作品というよりはむしろ人間・寺山修司に対する漠たる興味は、学生来つねに抱いていたような気がする。
だからこそ、このイベントに参加する気にもなったのであるが、一部書評等を除いて作品に接したことがないのもまた事実で、私はまさにファンの方々の“末席”に身を置かせていただいたのであった。

かような次第で、寺山氏について語るに足る材料をほとんど持ち合わせていないので、その人物像や功績についてはウィキさん他にお任せするとして、ここでは九條さんのトークを中心に記すこととする。

九條さんはSKD出身で映画女優をされておられたというのも道理、昨年 喜寿を迎えられたなどとは到底信じられぬほどに若々しく、見目麗しい方であった。
その一方で、ご見解や話しぶりには姉御肌の気風が窺え、清々しい。
時を遡ること半世紀、精気漲る若き劇作家が魅了されてしまったのも、無理からぬ話であろう。

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                  (※3)

交際のきっかけは、SKDの舞台をまさに“天井桟敷”から観た寺山氏が九條さんを見初め、共通の知人を介して、自分が手掛けた舞台に誘ったことに始まる。
九條さんが「前衛的な演出が新鮮で面白かった」と評価するその舞台は、してやったり、彼女に寺山氏を無視できぬ存在として強く印象付けることに成功したのであった。
余談ではあるが、その仲を取り持った知人というのが映画監督の篠田正浩氏、件の舞台『血は立ったまま眠っている』の演出が浅利慶太氏であったというのは、なんとも贅沢な人脈である。

手紙魔の寺山氏は、頻繁に九條さんに文を送っていた。
日中、寺山氏と会い、アパートに戻ると郵便受けに手紙が届いていたというようなことも、間々あったようである。
今時の若者同様、取り留めのない“つぶやき”から甘い恋の“ささやき”まで、その内容は様々であったらしい。
そんな当時の寺山氏を評して、九條さんは「敵は詩人」と表現しておられた。
まだ心を許すまじ、されど、ひとたび気を緩めれば、強烈な飛び道具“愛の詩”の餌食となりうる危険性(あるいは期待か…)をも意識した女心が、九條さんをして「敵」と言わしめたのであろうか。

ある時、九條さんがゴミ箱に捨てていた寺山氏からの手紙を、たまたま部屋に来ていた本人が見つけてしまった。
寺山氏は「文豪の手紙は高くなるから捨てちゃダメだよ。」と言って聞かせたそうである。
また、捌き切れなかった歌集『田園に死す』を古本屋に売ってしまった際も、「俺の本は今に高くなる」と怒られたそうである。
怖いものなしの意気盛んな寺山氏と、負けず劣らずの強者ぶりを発揮する九條さんとのキャラ対立が微笑ましいエピソードである。
微笑ましいついでに、寺山氏のお茶目な姿をもう一つ。
氏は本屋に行くと、自分の本の背を何冊か、少しだけ手前に引出していたとか。
まるで誰かが手に取ったよう装って、客の興味を引こうというのである。
本人の弁によると「五木寛之さんのマネ」とのことであるが、はてさて、真偽のほどは…


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寺山氏は、高尾の高乘寺に眠る。
九條さんは、ただ「面白そう」との理由から、同じ霊園の寺山氏の墓を見下ろせる場所に、ご自身の墓を購入されたそうである。
そして、その墓石には「天井桟敷」と刻まれている。
かつて寺山氏が舞台の九條さんを見初めたという「天井桟敷」から、いずれ九條さんや志を同じくする方々(※4)が氏を見守ろうというのである。
これほど粋で、これほどお二方に相応しい演出は、往年のカリスマ劇作家を以ってしても成し得たかどうか…
寺山氏の苦笑いする姿が、目に浮かぶようである。


※ ここで取り上げたエピソードについては、九條さんのご著書『回想・寺山修司』に詳しいものもありますが、今回のイベントでの表現を優先させていただいたので、一部ご著書とは内容の異なる箇所があります。ご了承ください。

※1,※3 「寺山修司と演劇実験室 天井棧敷」より

寺山修司と演劇実験室 天井棧敷 (Town Mook 日本および日本人シリーズ)

寺山修司と演劇実験室 天井棧敷 (Town Mook 日本および日本人シリーズ)

  • 作者: 九条今日子
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2013/04/02
  • メディア: ムック

※2 かつて寺山氏も訪れたという三軒茶屋の居酒屋。
30年経った今も、“町”のあちこちに氏の足跡を見ることができる。
※4 九條さんは、イベントで「入りたい人は、誰でも入ればいい」と仰られていた。ご冗談かとも思ったが、ご著書にも「「天井桟敷」と墓石に刻んでおけば、誰でも望むなら入れるかもしれない」との件がある。

回想・寺山修司 百年たったら帰っておいで (角川文庫)

回想・寺山修司 百年たったら帰っておいで (角川文庫)

  • 作者: 九條 今日子
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2013/04/25
  • メディア: 文庫

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