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「大胯びらき」 J.コクトー (1) [BOOK]

※ 作品の内容に触れる記述があります。予めご了承ください。

初めて世に出た澁澤龍彦の作品は、翻訳本であった。
原典はもちろんフランス文学、ジャン・コクトーの『大胯びらき』がそれである。
時に1954年、澁澤26歳のことであった。

まず、原作者について簡単に触れておこう。
コクトーは小説家のほかに、詩人や画家としての顔を持ち、さらに『美女と野獣』('46)、『オルフェ』('49) などの作品では、映画監督としての才も遺憾なく発揮している。
まさにマルチアーティストといったところだが、自らは “poéte(詩人)” を好んで称していたというエピソードを踏まえ、澁澤は「彼は、詩というものを技術の様式の裡に閉じこめないで、あらゆるものに通じる純粋な魂の状態と解しているらしい。だからこそ、小説に、芝居に、評論に、映画に、あのように多彩な活躍が、(中略)なんの支障もなくつづけられるのだろう」と説いている。
日本でも数年おきに作品展が催されるなど、今なお根強い人気を持つ芸術家である。


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        (「ジャン・コクトー展」図録 / 2001年)


澁澤は『大胯びらき』の翻訳を浪人中から手掛け、大学を卒業するまでにはほとんど完成させていたという。
それにしては大人の―すなわち、みだりに修辞・修飾を塗り重ねることのないスマートな文章で、非常に洗練されている印象を受ける。
それが澁澤の手柄か、あるいはそもそものコクトーの筆に由来するものか、原書を自力で読み解くことが敵わぬ以上、判断はつきかねるが、読み進める上での軽妙な翻訳レトリックが心地よく、その意味においては澁澤の力に負うところが大きいように思われる。

内容については、訳者たる澁澤の解説がいくつか残っているので、これを引くのが適当であろう。
そも、タイトル『大胯びらき』の言わんとするところは、「舞踏上の術語で、胯が床につくまで両脚をひろげること、(中略)少年期と青年期のあいだの 《大きな距離》 (原題 Le Grand Ecart の本来の意味)を暗示している」のであり、内容を簡述するならば、「少年期から青年期への危険な年齢における、主人公の愛の悲劇を扱ったもので、コクトーの自伝的な小説と言われているもの」とのことである。
                              (つづく)

<参考>
 本書「あとがき」
 「ジャン・コクトー ― 作家と作品」 (『大胯びらき』所収)
 「一冊の本 コクトー『大胯びらき』」 (『澁澤龍彦全集』第17巻所収)


大胯びらき (河出文庫)

大胯びらき (河出文庫)

  • 作者: ジャン コクトー
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2003/07
  • メディア: 文庫

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