「小澤征爾さんと、音楽について話をする」 小澤征爾×村上春樹 1 [BOOK]
※ 作品の内容に触れる記述があります。予めご了承ください。
愛書家の方々からは邪道とお叱りを受けるかも知れないが、新刊の小説やエッセイを買う場合、余程のことが無い限り私は文庫版になるのを待つ。
元より内容は一緒なわけであるし、適度なインターバルを置くことによって、一時のブームに乗っただけの駄作を掴まされずに済む。
もちろん、「すぐにでも読みたい!」とのモチベーションがあれば、話は別である。
この本は、そんな思いから、久しぶりにハードカバーでの購入となった。
まず驚かされたのは、村上氏のクラシックリスナーとしての“素養”である。
「その昔ピアノを少し習っていた」以外は「ほぼまったくの素人」と自身が語るように、演奏者としてクラシックと接してきたわけではないので、例えばスコアの分析や解釈といったような実践的な事柄についての記述は、決して多くはない。
しかし、高校生の頃からレコードを集め始め、暇を見付けてはコンサートに足を運び、特に在欧中は「浴びるほど」クラシックを聴いた―というような経験は、氏のリスナーとしての感性や知見を培ったばかりではなく、実演奏の僅かな差異を聴き分けられるほどに、氏の音楽的な聴力をも鍛えていたようである。
数回に渡る対談は、病気療養中の小澤氏の体調とスケジュールに最大限の配慮をした環境を、そのつど村上氏自らが調え、余人を交えずに行われた。
例えば村上氏の自宅でのインタビューは、こんな具合に進む。
まず、特定の楽曲についてのレコードやCDを何枚か聴く。
その中で村上氏が気になった箇所、例えばある演奏におけるソリストとオーケストラの微妙な呼吸のズレについて、小澤氏に質す。
すると、そのソリストの性格や指揮者との関係について、同じ状況を経験した者しか知りえない生々しい証言が、マエストロより飛び出す。
また、村上氏の興味がいくつかのオーケストラの特色に及ぶと、その常任指揮者の個性、時代的な流行やホームの聴衆の好み、さらにはホールの形状による音の違いに至るまで、マエストロの舌は一層滑らかになる。
ひたすらスコアと格闘したという修行時代の話などは、「しんどかった」と言いながらも、どこか楽しそうにマエストロは振り返る。
積み重ねられた研鑽の歴史と未だ冷めやらぬ音楽への情熱が、ここでは村上氏のタクトによって紡がれてゆく。
このような展開は、偏に小澤氏をして「聴き方が深い」と言わしめた村上氏の“素養”あったればこそである。
その鋭敏にして的確な指摘は、事実、私が別に読んだ音楽評論家の論評と比べても遜色なく、この点においては、両氏が企んだ「(レコード)マニアが読んで、なるべく面白くないようなものにしていきましょう」との当ては、見事に外れたと言うほかない。
(つづく)
愛書家の方々からは邪道とお叱りを受けるかも知れないが、新刊の小説やエッセイを買う場合、余程のことが無い限り私は文庫版になるのを待つ。
元より内容は一緒なわけであるし、適度なインターバルを置くことによって、一時のブームに乗っただけの駄作を掴まされずに済む。
もちろん、「すぐにでも読みたい!」とのモチベーションがあれば、話は別である。
この本は、そんな思いから、久しぶりにハードカバーでの購入となった。
まず驚かされたのは、村上氏のクラシックリスナーとしての“素養”である。
「その昔ピアノを少し習っていた」以外は「ほぼまったくの素人」と自身が語るように、演奏者としてクラシックと接してきたわけではないので、例えばスコアの分析や解釈といったような実践的な事柄についての記述は、決して多くはない。
しかし、高校生の頃からレコードを集め始め、暇を見付けてはコンサートに足を運び、特に在欧中は「浴びるほど」クラシックを聴いた―というような経験は、氏のリスナーとしての感性や知見を培ったばかりではなく、実演奏の僅かな差異を聴き分けられるほどに、氏の音楽的な聴力をも鍛えていたようである。
数回に渡る対談は、病気療養中の小澤氏の体調とスケジュールに最大限の配慮をした環境を、そのつど村上氏自らが調え、余人を交えずに行われた。
例えば村上氏の自宅でのインタビューは、こんな具合に進む。
まず、特定の楽曲についてのレコードやCDを何枚か聴く。
その中で村上氏が気になった箇所、例えばある演奏におけるソリストとオーケストラの微妙な呼吸のズレについて、小澤氏に質す。
すると、そのソリストの性格や指揮者との関係について、同じ状況を経験した者しか知りえない生々しい証言が、マエストロより飛び出す。
また、村上氏の興味がいくつかのオーケストラの特色に及ぶと、その常任指揮者の個性、時代的な流行やホームの聴衆の好み、さらにはホールの形状による音の違いに至るまで、マエストロの舌は一層滑らかになる。
ひたすらスコアと格闘したという修行時代の話などは、「しんどかった」と言いながらも、どこか楽しそうにマエストロは振り返る。
積み重ねられた研鑽の歴史と未だ冷めやらぬ音楽への情熱が、ここでは村上氏のタクトによって紡がれてゆく。
このような展開は、偏に小澤氏をして「聴き方が深い」と言わしめた村上氏の“素養”あったればこそである。
その鋭敏にして的確な指摘は、事実、私が別に読んだ音楽評論家の論評と比べても遜色なく、この点においては、両氏が企んだ「(レコード)マニアが読んで、なるべく面白くないようなものにしていきましょう」との当ては、見事に外れたと言うほかない。
(つづく)
2012-02-12 21:38
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思わずいいね!をクリックしてしまいました^^
by 9neΘ (2012-03-10 23:01)
続
楽しみにしています。
by 9neΘ (2012-03-10 23:08)
9neΘさん、いつもご高覧ありがとうございます。
記事の日付は下書きに上げた段階のものですので、お返事が若干前後してしまい申し訳ございません。
続きについては鋭意執筆中です。
いましばらくお待ちください。(^^ゞ
by ころん坊 (2012-03-14 18:07)