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館長:庵野秀明 「特撮博物館」 1 [ART]

入口の仄暗いトンネルを抜けると、夢の国であった―
このトンネルはタイムトンネルか、はたまた‘逆’ガリバートンネルか…
いずれにせよ会場の明かりの下では、大人は子供に、さらに巨人へと変貌を遂げていたのである。

いきなり現れた宝の山を前に、でかい態(なり)の子供たちは、どこから手を付けていいのか分からず立ちすくむ。
[←順路]の表示が無ければ、そんな連中が大渋滞を起こしていたに違いない。

では、私も順路に従って、各エリアをご紹介することにしよう。

《 人造 原点Ⅰ 》
「原点」の名の通り、特撮黎明期の資料が並ぶ。
そのほとんどは私が物心つく前の作品に関するものであり、馴染みのあるものは多くはなかったが、それでも小松崎茂氏のイラストなどは、プラモデルのパッケージや本の挿絵でよく目にしていたもので、懐かしい記憶が蘇ってくる。
また、井上泰幸氏デザインの宇宙防衛艦「轟天」や成田亨氏デザインの「マイティジャック号」などは、当時のピュアな正義感と戦闘本能を思い起こさせる魅力的なフォルムであった。
その昔、つんと澄ました近所の女の子らが、安っぽいビーズやアクセサリーで己を着飾ることばかりに夢中になっていた傍らで、僕ら男子は来たるべき日に備え、兵器運用や防衛態勢のシミュレーションに日々余念がなかったのである!


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《 超人 原点Ⅱ 》
私にとっては、このエリアこそがまさに“原点”である。
当然のことながら思い入れも強く、他のエリア紹介とのバランスを欠くことになるのは目に見えているので、後日あらためてご紹介することとする。

《 力 》
おもに平成『ガメラ』シリーズと『日本沈没』の撮影に使われたミニチュアが並ぶ。
重要シーンの舞台となるランドマーク的建造物が丁寧に作られるのは分かるとしても、セットに紛れてしまいそうな電柱や街灯まで精緻に作り込まれているのには驚嘆させられた。


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願わくば『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』で決戦の舞台となった京都駅なぞ拝みたいところであるが、むろん叶うはずもない。
あの日、あの壮絶な戦いにより、破壊されてしまったのだから…

壊されるためにセットを作る―
特美スタッフの仕事の尊厳は、あるいはこの一点に極まるのかもしれない。

《 映画 「巨神兵 東京に現わる」 》
この博物館のために一本の短編映画が制作された。
『風の谷のナウシカ』に登場した巨神兵が突如として東京に現れるという、ジブリファンならずとも大いに興味をそそられるストーリーである。
ちなみに、「ナウシカ」において巨神兵が王蟲(オーム)を薙ぎ払うシーンの原画を担当したのが、ほかでもない、若き日の庵野秀明氏だったのである。


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リアルな造型を得て蘇った巨神兵はもちろんのこと、ミニチュアで精巧に再現された町並から破壊シーンの独創的なギミックに至るまで、スクリーンに映し出されるもの全てが主役である。
したがって、映画の鑑賞法としては邪道かもしれぬが、作品に感情移入して物語の機微を味わうというのではなく、個々のシーンに登場する造型物や視覚効果を愛でながら、歴代の特撮マンが歩んで来たおよそ穏やかならざる道に想いを馳せるというような鑑賞の仕方も、この作品に限っては許されるのではないだろうか。

神社の鳥居越しに仰ぎ見た巨神兵から放たれたプロトンビームは町を焼き、その炎は東京タワーと増上寺を包み込む。火の海と化した大地を悠然と歩く巨神兵の足元には、焼け落ちた教会のシルエットが浮かび上がる。
卓抜たる技術力とチームワークで仕上げられた贅沢な短編映画は、一義的には樋口真嗣監督以下、特撮スタッフの仕事の成果に他ならないが、かように思想と文明の象徴が滅び行く様がきっちりと描かれているあたり、“庵野テイスト”も健在である。

 <おまけ>
宮﨑駿監督の庵野氏に対する落書き(「ナウシカ」制作当時)
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左メモ 「カット出せ / はやく!! いそげ おそい / 巨神兵 / ひであき!! / 仕事しろ 仕事」 
右メモ 「ねすぎる!! 今にゴキにくわれるぞ / はやくカットあげろ」

《 軌跡 》
『巨神兵 東京に現わる』の画コンテや造形物などが並ぶ。
中でもメイキング映像は、これを観ずして『巨神兵―』を語るなかれ、というほどの代物であった。
爆薬とエアキャノンを用いた破壊シーン、あるいはビルの倒壊や融解シーンなどの技術的な解説はたいへん興味深く、先達が培ってきた技術に若い知恵と工夫が加わって新たな手法が生み出されるプロセスには胸が熱くなった。
さらに、映画が完成するまでを制作日誌的に記録した映像からも、物作りの苦労と、それにも勝る喜びが伝わってくる。
苦悶の表情で何度もカットを繰り返した後、ようやく弾けた樋口監督の笑顔は、まごうことなき少年のそれであった。

                               (つづく)

特撮博物館H.P.
http://www.ntv.co.jp/tokusatsu/

※ 画像については本展パンフレットより低画質にて転載

[晴れ]
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