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「糸井重里の萬流コピー塾」 1 [BOOK]

ネットで探し物をしていたところ、かつての愛読書がKindle版にて販売されているのを見かけたので、懐かしさのあまり押入れから引っ張り出してきた。
いつだったか絶版と聞いていただけに、いかなる形であれ、復刻は嬉しい知らせである。


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本書は、コピーライターの糸井重里氏が『週刊文春』に連載していた読者参加型の企画を、文庫版として編集したものである。
毎週、誌面で出されたテーマに対し読者がコピーを投稿、それを氏が批評するといった極めてシンプルな構成であった。
昔から言葉遊びの類いが好きだった私は、学生時代にその本と出会い、すぐさま夢中になった。
わずか数文字が軽やかに綴る人生模様は、川柳が十七文字で描くユーモアとウィットに溢れた世界とも相通ずるものがあり、その発想や工夫にニヤリとしたり唸ったり、飽きることなくページを捲ったものである。
内容的には大喜利に近いが、そこは「コピー」と謳うだけに、いくら面白くともネガティヴなだけの作品は評価されない。
マイナスの要素や下ネタをいかにポジティヴに表現し、商品(=テーマ)の価値を高めるかというところも見どころであった。

何はさておき、まずは実例をご覧いただこう。

テーマ 「コロッケ」

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(世田谷区代沢「フランス屋」 手づくりコロッケ)

連載上は24回目ともなるお題だけに、糸井氏(以下、企画に合わせ「家元」という)の理念や評価のコツを心得た巧みな投稿が目立った。
“庶民派”をアピールしつつも、いかにただの“庶民派”で終わらせないか、というあたりがポイントではなかろうか。
なお、コメントは私の所感なので、ご了承のほど…

「おっ、トンカツの匂いがついてる」
オマケ戦略。

「新妻の、2ケ買う事のほこらしさ」
小さな幸福の正しい描き方。

「彼ったらね、いきなり熱いものをあたしの口の中に入れてくるの」
小さな幸福の曲がった描き方。

「肉屋から八百屋への挑戦状」
肉屋のショーケースにでも貼ってあれば面白いと思うが、家元も「これは大書きしたりするとカドがたつ」と評しているので、平和的なこちらも載せておこう。
「肉屋を父に、八百屋を母に」

「テーブルの冷めたコロッケをみて、つい何も盗らずに、出てきてしまった」
電子レンジが一般的でなかった時代ならではの哀愁。
が、忘れてはならない、コロッケが一家の危機を救ったことを!

「毎月二十四日はコロッケの日です」(※)
そう、コロッケは人にも財布にも優しいのである。
……等々。

そして、この回の最高評点の作品がこちら。

「落しても、食える」

なんという庶民感!なんという愛情!なんという付加価値?[ぴかぴか(新しい)] 「ねっ、手練れにない、強烈な素直さが、心に波紋をひろげるでしょう。」とは、家元の評である。 激しく同意、お見事としか言いようがない。 なにぶん初出が'83年からの連載物であり、また、とりわけ時代を敏く反映するというコピーの性格上、若干古めかしさを感じさせるお題や回答も目立つが、それはそれ、思い切って昭和レトロを楽しんでしまえばいい。 一方で、今なお色褪せない普遍的な説得力を持つコピーも見受けられるから面白いのだ。 「じゃがいも冥利につきます」とか「うー。ソースが身にしみる」なんてのは、今一つコピーとしてのインパクトには欠ける(したがって、家元の評価点は得ていない)が、じわじわと“心にしみる”良作ではないだろうか。 コロッケがスーパーやコンビニで買える時代に、やれ肉屋だ八百屋だなどとのたまっている本が、「Kindle版」での復刻ということにも感慨を覚える。 いずれにせよ、この回に止めてしまうのは惜しいので、また追い追いご紹介しようと思う。
(ぶんこ版)糸井重里の萬流コピー塾 (文春文庫)

(ぶんこ版)糸井重里の萬流コピー塾 (文春文庫)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1988/03/10
  • メディア: Kindle版
[晴れ]

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